海外の葬送(散骨) 後編

投稿日: 2020年10月24日 PM 12:07

今回は、ダイナミックに変容した韓国の葬送文化に触れてみたいと思います。

朝鮮半島はもともと仏教の影響で火葬だった

インドで発祥した仏教は中国を経て韓国(そして日本)へと伝わっていきました。

朝鮮半島では三国時代(高句麗・百済・新羅 372年~676年)に仏教の伝来と共に「火葬」が取り入れられ、僧侶・貴族・王を中心に「火葬」が行われました。

高麗時代(918年~1392年)には仏教思想が浸透し、高い身分でなくとも「火葬」されていたようです。

新羅時代(7世紀頃)の骨壺。遺体を焼却後、遺骨を骨壺に収めて石室に埋蔵したとみられる。

朝鮮時代は儒教政策で土葬に!

ところが1392年に李氏朝鮮時代に入ると「儒教抑仏政策」で儒教政策が推進され「土葬」が一般化されていきます。

孔子像

儒教は祖先孝行を貴ぶので遺体を焼くことを禁じています。「両親の遺体を火葬にする者は重罰に処する」(経国大典)との条例を定め、「土葬制」を強行実行したので15世紀末には火葬はほぼ無くなってしまいました。この儒教政策は約500年続くことになります。

朝鮮半島の約70%は山地であり、当時の人々(特に支配階級)は、この山の麓に祖先の墓を建て、山に守られた平地を父系同族集団で構成される同族部落を作り、農業を中心とする生活を営んでいました。

祖先代々の墓がある「先山」は「聖地」であり、土饅頭のように見える「墓」は守護神の宿り場と考えられ、お墓の維持管理に努めることが「孝行」でした。韓国では山全体が墓地というのも珍しくはないのです。

山全体が同族の墓である
「先山」

日本による朝鮮統治時代に火葬が義務化された!

日本による朝鮮統治時代(1910年~1945年)になると、朝鮮半島のいたるところに散在していた「墓」が有効な土地活用を妨げると考えられて、1912年に「朝鮮総督府」(朝鮮を統治するために設置された官庁)は「墓地・火葬場・埋葬及び、火葬取り締まり規則」を発表。約500年守られてきた火葬禁止令を廃止。プライベートの墓地を不許し「公設の共同墓地」と「火葬制」を義務化しました。

朝鮮総督府

しかし500年続いた風習はなかなか変えられず、アメリカからの「キリスト教」の影響もあって「土葬」が依然大勢を占めていたようです。

ダイナミックに変容した韓国の葬送文化

日本からの独立後、韓国政府は1951年に「葬墓及び墓地などに関する法律」を制定しました。

1960年代~1970年代に近代化、産業化、都市化政策の実施により、人口がソウルに集中するようになり土地不足を解消するため、ソウル市内の墓はソウル郊外へと改葬されるようになりました。

住宅が密集し土地問題が深刻なソウル(現在)

さらに韓国政府は、墓地として利用されている土地を、産業等のために確保するため「葬墓及び墓地などに関する法律」を改定して(1999年)「土葬」から「火葬&共同墓地」へと葬儀文化の改革を目指しました。

それでもなかなか「土葬」から「火葬」への意識改革ができませんでした。それは「火葬」は”貧しい人”の葬儀法の代名詞のイメージが韓国人の中にあったからです。

「土葬」から「火葬」への急速な変化

1998年のある日。ある財閥の会長が自分の死後は「火葬に!」との記事が新聞に載り大きく報じられ、これが、それまでの”貧しい人の”「火葬」のイメージから”進歩的な葬送”である「火葬」にイメージチェンジしたきっかけになったようです。

また、97年末から始まった韓国の経済危機で、多くの人が墓を買うお金を失い、人生観を変え、自分の人生を実利的に考えるようになったことが火葬率を上げる要因になったと考える人もいます。

1981年には13,7%であった火葬率が、2005年には52%、2015年には78,8%と急上昇し、ダイナミックに葬送文化が変化していったのです。

遺体を焼却後「散骨」していた「仏教式」葬儀法と、死者をそのまま地中に埋葬する「儒教式」葬儀法を折衷し、焼却後散骨せず、遺骨を壺に入れて奉安堂(納骨堂)に安置する「折衷型」葬儀法が急速に広まっていきました。

奉安堂

また韓国で行われた国民の意識調査によれば、家族制度の崩壊が進んでおり、「子孫による墓の維持が難しい」「墓地を準備できない」と感じている人も多く、同じ理由もあって墓地離れが起こっている日本とも共通していると感じます。

韓国消費者保護院では国土利用の効率性、経済性、親環境性から散骨が最も望ましい葬送方法であり、関連法規の整備、市民団体などのセミナー開催、散骨に対する広報の強化などを提唱しています。

また、樹木葬も広がってきており、火葬文化が広がる中で樹木葬を含めた散骨に大きな関心が集まり始めています。山林省も国レベルで樹木葬を推進することを検討しており、国として動いているところが日本とは違うところでしょうか。

樹木葬

まとめ

「火葬して散骨」するのは、土葬を主とするキリスト教圏では、自らの葬送を自由に考える先進的な発想によるものであり、一方、韓国や日本では限られた土地を有効に使うためや、お墓に対する意識の変化(子孫にお墓の維持をたのめない・・お墓に執着しない)によるものであると思えます。

自然に還る散骨

今後も「散骨」は世界規模で広がっていく気がします。

海洋散骨の蒼コーポレーション https://sou-sankotsu.com/